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釜賀浩平教授「将来世代にとっての望ましさとは」【教授インタビュー】(前編)


その他
2022年6月15日

上智大学、釜賀浩平教授にインタビュー!


〜上智大学経済学部経済学科 釜賀浩平教授(公共経済学、厚生経済学、社会的選択理論)〜

取材日時(2022年5月20日)


大学に進学しようと考えている人は、どの大学のどの学部を志望するのかを決める必要がありますよね。進路選びをするためには学部や大学の情報が必要になってきます。そういったことは大学の教授に聞くのが一番だと思い、私が通う上智大学経済学部の釜賀浩平教授にインタビューしてきました!経済学とはどういった学問なのか、学生時代に何をすべきか、上智大学の特色はなんなのか、経済学部への進学を志望している人はもちろん、全高校生・大学生にとって必見の内容となっています!

内容
前編

  • 経済学、厚生経済学、社会的選択理論とはどういった学問?
  • 教授が社会的選択理論に興味を持ったきっかけ(教授の進路選び)
  • 実際にどんな研究をしている!?

後編

  • 大学生は学生生活に何をすべき?
  • 上智大学経済学部経済学科・上智大学の魅力
  • 高校生へのメッセージ


経済学、厚生経済学、社会的選択理論とはどういった学問?


 −−釜賀先生は厚生経済学や社会的選択理論を専門とされていますが、専門とする分野のお話を聞く前に、"経済学"とはどういった学問なのでしょうか?


「経済学とは?」というのは一つの大きな問いなんだよね。この問いに対しては、「希少な資源の配分を考える学問」というのが一つの説明になる。例えば、世の中にリンゴ農家とミカン農家がいるとする。リンゴ農家はリンゴだけ食べて、ミカン農家はミカンだけ食べるっていう自給自足の世界も一つの方法なんだけど、やっぱり、リンゴだけ食べる、ミカンだけ食べるっていうのは嫌だよね(笑)。同じものをずっと食べるのは嫌じゃない?それよりも、リンゴもミカンも食べたほうが満足度は高まるよね。だけど、リンゴもミカンも無尽蔵にあるわけじゃない、つまり希少な資源だから、無料で誰かにあげるっていうのはできない。だから、リンゴやミカンに希少性(注1)のシグナルとして価格をつけて、世の中にいるリンゴやミカンが欲しい人が、自分が持っているお金の範囲内でそれらを買う、つまり、お金を媒介にして交換する。


経済学はこんな感じの、希少な資源の配分をどのように行うのが社会にとって一番望ましいかを考える学問。この問いに対して、通常の経済学は、市場メカニズム(注2)というシステムを使って効率的に資源を配分するのが理論上は最適だと答える。


(注1)需要と供給の相対的な大きさで決定される、社会的な必要性の高さ。希少性が高い物ほど価格は上昇する。

(注2)ある財を買いたいと思う人と、ある財を売りたいと思う人の量が等しくなるように、財の価格が調整され、その価格のもとで売買が行われること。


 −−通常の経済学では効率性を重視するわけですね。それでは、厚生経済学は少し違うのでしょうか?


効率性では無駄の無さだけに着目するけど、そこに加えて「何らかの意味での衡平性(バランス)も考えよう」というのが厚生経済学。効率性だけを考えていると問題があるんだよね。


例えば、誰かが資源を総取りすることも効率性の定義ではよしとされるんだよね。こういった、誰かに資源が集まりすぎるような過度の格差はよくないよね。完全平等を目指すわけではないけど効率性だけを重視するのはまずいから、何らかの意味での衡平性も考えなくちゃいけない。効率性と何らかの意味での衡平性を達成するためには、市場メカニズムにどんな補正をしたらいいのかとかを考えるのが厚生経済学。


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 −−効率性と衡平性両方を考えるのが厚生経済学なんですね。厚生経済学の中でも社会的選択理論を専門とされていますが、社会的選択理論とはどういった学問なのでしょうか?


厚生経済学では効率性に加えて何らかの意味での衡平性を目指すって言ったけど、衡平性に関しては「何らかの意味の」って少し濁してたんだよね。効率性に関してはパレート効率(注3)という具体的な定義があるから、「効率性が達成されている状態とはパレート効率的な状態である」て答えられるんだけど、衡平性に関してはそういった具体的な定義がないから、「衡平性が達成されている状態とは一体どんな状態だ?」といった哲学的な問題が出てくる。


そこで、経済学、政治哲学、倫理学、道徳哲学とかを使って衡平性に関する定義を作る。つまり、「衡平性とはこういう意味での衡平性を指している」と定義できるようにする。そうすることで、厚生経済学が着目する効率性と衡平性の両方の定義が明確になる。でも、効率性と衡平性の定義だけで資源配分(注4)がいいのか悪いのかを判断するのは難しい。もしも、効率性と衡平性の定義をもとに資源配分の優劣を評価できるものさしがあれば、「この資源配分はものさしの上で最高点に達しているから良い」「この資源配分は最高点に達してないから改善の余地がある」みたいに評価ができやすくなるよね。


こんな感じに、「資源配分の良し悪しを評価するために、どんなものさしを使ったら良いのかを理論的に探ろう」ていうのが社会的選択理論。それで、なんで "社会的" 選択理論ていうのかというと、社会で使うものさしは社会を構成する人々の意見を考慮しなければいけないからなんだよね。


(注3)ある集団で、誰かの満足度を減少させないと、他の誰かの満足度を増加させることができない状態。例えば、3つにカットされたケーキをAさんとBさんで分けるときに、AさんとBさんが1カットずつ食べて、一つ余っている状態はパレート効率的ではない。なぜなら、残りの1カットをAさんかBさんにあげることによりいずれかの満足度は上昇するから。一方で、Aさんが3カットBさんが0というのはパレート効率的である。なぜなら、Bさんの満足度を高めるためにはAさんの1カットを渡す他なく、その場合Aさんの満足度が低下するから。

(注4)限られた資源をどのように配分するか。例のようなリンゴなどの生産物をどのように人々に配分するかや、1日が24時間しかない中で自分の労働力を何に使うかなども資源配分に含まれる。


 −−社会的選択理論は資源配分や政策の良し悪しを評価するものさしを探る学問なんですね!


そうそう。例えば、ものさし作りの例としては投票が挙げられる。選挙では誰かを選ばなければならない。投票では人々の意見をもとに、立候補者を順序付けすることによって候補者を選ぶけど、それじゃあどういった投票の仕組みを使えば良いのかていうのは社会的選択理論で考えることなんだよね。

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教授が社会的選択理論に興味を持ったきっかけ(教授の進路選び)


 −−これまで釜賀先生の専門分野についてお聞きしてきましたが、どういったきっかけでその分野に興味を持ったのでしょうか?


そもそも厚生経済学とか社会的選択理論は学部ではあんまり勉強しない学問だから、社会的選択理論を勉強しだしたのは大学院に行ってから。学部時代は自分が興味を持ったこといついて調べて発表するゼミに入ってたんだよね。当時って、アメリカとかゴリゴリ競争させるような国の経済成長ももちろん良かったんだけど、北欧とかの平等主義的で税金が高くて社会保障が充実してる福祉国家の経済成長のパフォーマンスも良かったんだよね。


 −−確かに、北欧とかの社会保障制度(注5)が充実している代わりに税率が高い国よりも、アメリカのような社会保障制度はそんなに充実してないけど、税率が低く競争が活発な国の方が経済成長しそうですよね。


そうなんだよね。それで、税率が高くて社会保障が充実している国が経済成長を両立してるのはなんでだろう?て思って福祉国家について調べてて、その時は何となくだけど「アメリカみたいな格差があまりに酷くて、お買い物ができるのはお金持ちだけっていう国より、再分配政策(注6)によって多くの人がある程度のお金を持っていて、多くの人がお買い物をできる福祉国家の方がうまく経済が動くんじゃないか」ていう感じに考えてたんだよね。


それを考える時に再分配の話が出てくるんだけど、「再分配によってどういった状態を目指すのが良いのだろう?」「望ましい状態とは何だろう?」ていうような疑問が漠然と自分の中に残って、それで、大学院に進むときに社会的選択理論がそういった「望ましさ」みたいなテーマを扱っていることを知って、社会的選択理論をやろうってなったかな。その他にも、現代の社会的選択理論を作り上げたアマルティア・センとかの本を学部時代に少し読んでいたのもあって、社会的選択理論に興味を持ったかなぁ。そこから、大学院で社会的選択理論を勉強し始めて、今に至るって感じ(笑)。


(注5)年金や保険など国民の生活を支えるセーフティネット。

(注6)お金を多く持っている人から、政府が税金としてお金を徴収し、そのお金を社会保障制度などに使うことによって、格差を是正すること。


 −−福祉国家について考えてた中で残った疑問について研究できる学問が社会的選択理論だったわけですね!

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実際にどんな研究をしている!?


 −−それでは、現在は具体的にどういった研究をされているのでしょうか?


今は大まかに分けて二つの研究をやっていて、一つは貧困や不平等をどういう指標で測るのがいいのかを研究している。というのも、今いろんな指標があるんだけど、どれも一長一短だから、もっと良い指標がないのかなぁていう研究をしている。


もう一つは世代間の利害調整。例えば、環境問題への対策、年金政策、少子化対策とかは今生きている世代にも影響を与えるけど、将来世代にも大きな影響を与えるよね。将来世代にも影響を与える政策だから本当は将来世代の意見も取り入れた方がいいのだけど、将来世代はまだ産まれてないから彼らの意見を聞くことはできない。将来世代を考慮しなくていい場合は、投票とかで現代に生きている人の意見を抽出すればいいけど、将来世代を考慮しなければいけない場合、投票で決めるっていうわけにはいかないよね。


例えば、現代世代が行う気候変動への対策を考える上で、将来世代の利害も考慮しなければいけないけど、どんな対策をするのが現代と将来世代にとって望ましいのかの判断が難しい時がある。その時に、政策の優劣を測るものさしがあれば、どの対策を現在行うべきなのかが判断できる。だから、世代間の利害を考慮しなければならない政策や資源配分の優劣を判断するためには、判断のためのものさしが必要なんだよね。


ざっくりいうと、将来世代の人の意見を今は聞くことができないから、理論上で将来世代の利害を考慮する必要がある。そして、世代間に影響を与える政策の優劣を判断するためには、世代間の利害を考慮したものさしが必要になってくるから、そのものさしを理論的に探っているって感じかな。


 −−確かに、将来世代の意見を実際に聞くことはできないですけど、将来世代に影響を与える資源配分や政策については将来世代を考慮することが必要ですね。そのために、現代世代と将来世代にとって望ましい状態とは何かを理論的に研究しているんですね。そして、もう一つは貧困や格差をどう測るのがいいのかを研究しているんですね。研究をしている中で、研究のどういった面に魅力を感じますか?


そういうことだね。魅力に関しては、貧困や不平等の研究は割と現実の問題とのリンクが強いから、国の政策とか何らかの役に立てていることかな。学者が研究することの中には政策とかを気にせず、学問として研究している部分があるんだよね。加えて、社会科学は自然科学ほどお役に立ってる感を感じづらいんだよね。でも、貧困や不平等の研究は、現在行われている政策に対して、「この政策あまり不平等是正できてませんよ」みたいに政策に対して何らかの意味があることが世代間の利害調整よりは直接的に言えるんだよね。将来はあくまでまだ到来していない未来であって、ある程度近い将来のことを何となく予測することはできても、確定的なことは分からないからね。だから、現実の問題と関わりがあって、政策に対しても何らかの意味があることをしている感じがすることが今の研究の魅力かな。

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あとがき

前編はここまでになります。前編では経済学や釜賀浩平教授の研究内容についてお届けしましたが、後編では大学生活でしといた方がいいこと、高校生活でしといた方がいいこと、上智大学の魅力についてお届けします。上智大学を少しでも進学先として考えている方にはもちろん、今高校生で何をすればいいのか悩んでいる人にとっては必見となっています!是非是非チェックしてみてください!


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しりょかわ

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